2005年06月20日

・ベトナム・癒えぬ傷:枯葉剤はいま/下

MSN-Mainichi INTERACTIVE ベトナム
 ベトナム・癒えぬ傷:枯葉剤はいま/下 知ってほしい被害実態

 ◇重い障害、苦しみ続く

 ベッドに横たわる幼児の両目にまぶたはない。突き出た手足が、空(くう)をつかむようにもがく。ホーチミン市にあるツーズー病院内にある「平和村」。案内された2〜5歳までの子どもたちの部屋で、まず私の目に飛び込んできたのが、両目のないチャン・フン・トゥオン・シンちゃん(3)だ。

 「多発奇形症候群の一つだ。外見上、性別の判断もつかない」。小児内科のファン・ティ・ツゥイ女医が説明してくれた。この施設には、枯れ葉剤の影響とみられる25歳までの障害者ら60人がいる。枯れ葉剤の影響は外見だけでなく、知能に障害をもたらすケースも多い。シンちゃんについてツゥイ医師は「うれしい、悲しいの感情表現はできるが、知能の発達は遅れている」とも付け加えた。

 傍らのベッドには、頭が異様に大きい女児が寝ていた。ドー・ティ・ビックちゃん(2)は、頭蓋内(ずがいない)に脳脊髄(せきずい)液が多量にたまる水頭症。「普通の2歳児の頭のほぼ倍の大きさ。これからも大きくなる。言葉は発しません」とツゥイ医師は続けた。

 施設には、枯れ葉剤被害の象徴的存在の結合体双生児の「ベトちゃんドクちゃん」の兄グエン・ベトさん(24)もいた。88年の分離手術で、弟ドクさんは松葉づえを頼りに病院に勤務しながら枯れ葉剤被害の支援を訴えるなどしているのに対して、ベトさんは今も寝たきり。言葉を発することも一人で食事することもできない状態で、回復の見込みはない。

 ベトナム人被害者の補償について、米国政府の態度は冷たい。帰還兵に対しては被害認定した場合は月に最高約1500ドルを支給しているが、ベトナム人には何の補償もしていない。ベトナム人に対しては、ベトナム政府が認定者にドル換算で毎月5ドルを支給しているにすぎない。こうした実態にツゥイ医師の怒りは収まらない。「いまだに被害を受け続けている子どもたちを診ていると心が痛む。戦争体験した人たちの子どもや孫にどんな罪があるというのか」と語る。

 「広島や長崎の被爆者の問題は60年かかって世界に広がった。枯れ葉剤被害を訴える闘いも長くなる」。そう予測するのは、国連のニューヨーク駐在の女性大使などを務めたホーチミン市平和委員会のグエン・ゴック・ユン副委員長(78)だ。ユン氏は「化学兵器である枯れ葉剤の被害は第2、3世代まで及んでいる。その実態を多くの人たちに知ってほしい」と訴える。

  ◇  ◇  ◇

 私たちにとって戦後60年の今年、ベトナムは冷戦下で行われた戦争の終結から30年を迎えた。空からまかれた枯れ葉剤は「負の産物」として今も人々の体をむしばみ続けている。【沢田猛、写真も】

毎日新聞 2005年5月9日 東京朝刊


posted by じゅりあ at 00:51| Comment(0) | TrackBack(0) | ◆ 瓦版の巻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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